アメリカと聞くと「移民の国」というイメージがありますが、実はその移民政策は 歴史の中で何度も大きく揺れ動いてきました。
2025年現在も、国境管理や難民受け入れをめぐって激しい政治論争が続いており、 ニュースに出てくる「移民」「不法入国」「難民」という言葉がますます身近になっています。
本記事では、アメリカの移民政策の「昔」と「今」をざっくりと整理しながら、 現在の状況がどこから来ているのかを分かりやすく解説します。
1. アメリカは本当に「移民の国」? 歴史のざっくり全体像
アメリカは建国当初から、ヨーロッパを中心とした多くの移民によって作られてきました。 しかし「誰でもウェルカム」だったわけではありません。
19世紀後半から20世紀にかけて、移民が増えすぎたことへの不安や、 人種差別的な考え方が強まったことで、特定の国・人種を締め出す法律が 次々と作られていきます。
代表的なのが、1882年のチャイニーズ・エクスクルージョン法(Chinese Exclusion Act)。 これは中国人労働者の移民を禁止した法律で、アメリカが 特定の民族を名指しで排除した最初の移民制限法とされています。0
さらに1920年代には、北・西ヨーロッパ系を優遇し、南・東ヨーロッパやアジアからの移民を 強く制限する「出身国別割当制度(ナショナル・オリジンズ・クオータ)」が導入されました。1 こうして、アメリカは「移民の国」でありながら、実際には白人中心の移民だけを 受け入れる仕組みを長く続けていたのです。
2. 大転換点:1965年「移民・国籍法」で人種差別的な枠組みが終了
そんな人種差別的な枠組みを大きく変えたのが、1965年の移民・国籍法(Immigration and Nationality Act of 1965)です。2
この法律では、それまでの出身国別割当制度が廃止され、代わりに
- 各国ごとの上限枠(年間2万件など)
- 家族呼び寄せを重視
- 高度な技能を持つ人材を優先
といった、人種ではなく「家族」と「能力」に焦点を当てた仕組みに変わりました。
その結果、移民の出身地は大きく変化します。
それまで多かったヨーロッパ系に加えて、 アジアやラテンアメリカからの移民が急増し、 現在の多民族・多文化なアメリカ社会の土台がここで作られたと言われています。3
3. 不法移民と国境管理の時代:1980〜1990年代
1965年以降、移民流入は増え続けますが、その一方で 「不法移民(文書のない移民)」の問題もクローズアップされていきます。
3-1. 1986年「移民改革・管理法」:大規模な合法化+雇用主への制裁
1986年、レーガン政権のもとで移民改革・管理法(IRCA)が成立しました。4
- 1982年以前からアメリカに住んでいた多くの不法移民に、合法化の道を開く(いわゆる「アムネスティ」)。
- 不法移民を「知っていて雇う」雇用主に罰則を導入(雇用主制裁)。
つまり「長年暮らしてきた人には救済を与えつつ、これ以上の不法入国は仕事を減らして抑えたい」 という、救済と取り締まりをセットにした改革でした。
3-2. 1996年「違法移民改革・移民責任法」:取り締まりの強化
その後、1996年にクリントン政権が成立させた 違法移民改革・移民責任法(IIRIRA)では、
国境警備の強化や、強制送還の対象拡大、州や地方警察と連携した取り締まりなどが進みました。5
こうして1990年代までに、アメリカの移民政策は 「移民の合法化」と「国境・治安重視の取り締まり強化」が同時に進む という二面性を持つようになっていきます。
4. 21世紀の大きな揺れ:トランプ、バイデン、そして再びトランプ
2000年代以降、アメリカ社会の分断や治安・テロへの不安、経済不安が高まる中で、 移民政策は「政治的な争点のど真ん中」に座るようになります。
4-1. トランプ政権(第1期:2017〜2021)
トランプ政権(第1期)は、移民政策で大きな転換をもたらしました。主な特徴は次のようなものです。6
- 中東・アフリカなど一部の国からの入国を制限する「渡航禁止令(トラベルバン)」
- 「ゼロ・トレランス」政策による国境での家族分離(親子が別々に収容される問題)
- メキシコ国境での「メキシコ待機政策(Remain in Mexico / MPP)」により、亡命希望者をメキシコ側に戻す
- 難民受け入れ枠の大幅削減
こうした政策は支持層には「治安の強化」として評価される一方、 人道面で大きな批判を浴び、裁判でもたびたび争われました。
4-2. バイデン政権(2021〜2024)
次に登場したバイデン政権は、トランプ政権の路線を一部見直し、 難民受け入れ枠の拡大やトラベルバンの撤廃などを進めました。7
しかし、メキシコ国境での越境者は記録的な数に達し、 バイデン政権も「国境管理の強化」に動かざるを得なくなります。
- 新型コロナ対策として導入されていた「タイトル42」(保健措置を口実に越境者を迅速に追い返す仕組み)の延長・活用
- 亡命申請をスマホアプリ「CBP One」から予約制にするなど、手続きの管理を強化
- キューバ・ハイチ・ニカラグア・ベネズエラなどからの移民向け人道的パロール(仮入国プログラム)を導入
その一方で、2024年には南部国境での亡命申請資格を厳しく制限する大統領令が出され、 「人道的」と「抑制」の両面を持つ複雑な政策となりました。8
4-3. トランプ政権(第2期:2025〜)
2025年1月、トランプ氏が再び大統領に就任すると、 移民・難民政策は再び大きく締め付け方向に動きます。
- 2025年1月20日の大統領令で、アメリカの難民受け入れプログラム(USRAP)の一時停止を宣言。難民の入国は「アメリカの利益に合致する場合」に限定する方針を示しました。9
- 2025年8月には、新たなトラベルバン(渡航制限令)が発表され、複数の国からの入国が大幅に制限されています。10
- 最高裁は2025年5月、バイデン政権期に認められていた一部移民への保護措置(仮滞在・一時保護)の終了を認め、約50万人超が退去リスクにさらされる状況になりました。11
このように、2025年現在のアメリカは、難民・庇護・人道的保護の枠を絞り込みつつ、 国境管理をより強化する方向へと舵を切っています。
5. 「今」のアメリカ移民政策を一言でまとめると?
2025年時点のアメリカ移民政策を、あえてざっくりまとめると次の3つのキーワードになります。
5-1. 国境管理の徹底強化
メキシコ国境では、フェンスや壁、監視技術、兵士の派遣など、 物理的・人的な「国境の強化」が続いています。IIRIRAに基づく権限を使い、 さらなる障壁建設を進める動きも見られます。12
また、亡命希望者の申請を遅らせたり制限したりできるかどうかをめぐって、 連邦政府と移民支援団体の間で法廷闘争が続いており、 2025年には連邦最高裁が「亡命申請をどこまで制限できるか」に関する 重要な事件の審理を受け入れました。13
5-2. 難民・庇護制度の厳格化
難民受け入れプログラムの一時停止や、亡命申請要件の厳格化など、 「保護」よりも「選別と抑制」を重視する傾向が強まっています。14
一方で、経済や労働市場の面では、移民が人手不足を補い、 景気を支えているとの分析もあり、
「どこまで絞るべきか」をめぐって政治的対立が続いています。15
5-3. 州と連邦政府のせめぎ合い
フロリダ州など一部の州は、独自の厳しい移民対策法を作ろうとしていますが、 連邦政府の権限との衝突も起きています。
2025年7月には、フロリダ州の不法移民取り締まり法について、 連邦最高裁が一時的に執行を認めない判断を示し、 「移民政策は連邦政府の専権事項」という原則を再確認した形になりました。16
6. これからのアメリカ移民政策はどうなる?
アメリカは今後も少子高齢化や労働力不足に直面すると予測されており、 経済的には移民の力がますます重要になると見られています。 一方で、治安や文化的な不安を理由にした「もっと締めるべきだ」という声も根強く、 移民政策はしばらく政治的な最大争点の一つであり続けるでしょう。
歴史を振り返ると、アメリカの移民政策は
- 人種差別的な排除の時代(19〜20世紀前半)
- 平等な受け入れを目指した1960年代の転換
- 不法移民と国境管理をめぐる葛藤(1980年代以降)
- 21世紀の「開放」と「制限」の揺り戻し
を何度も行き来してきました。
2025年現在は、治安・国境管理を前面に押し出した「引き締め期」にあると言えますが、 経済や人道の観点から「もっと受け入れるべきだ」という反発も強く、 今後の選挙結果や裁判の判断によって、大きく方向が変わる可能性もあります。
日本からニュースを眺めるときも、
「アメリカの移民問題=ただの治安の話」ではなく、
長い歴史と、経済・人権・地方と国の力関係が複雑に絡んだテーマだという視点で見ると、 さらに理解が深まるはずです。
今後、アメリカの移民政策がどこへ向かうのか――。
その流れを追っていくことは、「移民社会としての日本」の未来を考えるヒントにもなってくるかもしれません。
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