アメリカとロシア(旧ソ連)は、20世紀から21世紀にかけて世界情勢を大きく左右してきたライバル同士です。
第二次世界大戦では「同じ陣営の味方」だった時期もありますが、その後は冷戦、核兵器、ウクライナ戦争など、 常に緊張と対立の歴史がつづいてきました。
この記事では、アメリカとロシアの関係の流れを、できるだけやさしく、 「①冷戦期」「②冷戦後」「③ウクライナ戦争と現在」の3ステップで整理していきます。
1. 冷戦期:同盟国から最大のライバルへ
1-1. 第二次世界大戦までは「ぎこちない同盟関係」
1917年のロシア革命で誕生したソ連に対し、アメリカは当初は強い警戒心を持っていました。0 しかし、第二次世界大戦ではナチス・ドイツに対抗するため、アメリカ・イギリス・ソ連は「連合国」として共闘します。
とはいえ、民主主義と資本主義のアメリカと、共産主義のソ連では もともとの価値観が大きく違っており、戦後すぐに対立が表面化しました。
1-2. 冷戦:イデオロギーと核兵器をめぐる対立
戦後の世界は、アメリカを中心とする「西側陣営」と、 ソ連を中心とする「東側陣営」に分かれます。1 朝鮮戦争、キューバ危機、ベトナム戦争など、直接ぶつからない「代理戦争」を通じて長い緊張状態が続きました。
さらに、アメリカとソ連は核兵器の開発競争を繰り広げ、人類が滅びかねない「核戦争」の危機に何度も直面します。 その一方で、1960〜80年代にはSALT・STARTなどの軍縮交渉も進み、核兵器の数を減らす取り組みも行われました。2
2. 冷戦終結後:協力と失望が入り混じる「揺れる友好関係」
2-1. 冷戦終結と「蜜月期」(1990年代)
1991年にソ連が崩壊し、ロシア連邦が誕生します。アメリカはロシアの独立を承認し、 エリツィン政権と市場経済や民主化を支援する協力関係を築きました。3 この時期は「米露関係のハネムーン(蜜月)」とも呼ばれ、NATOとロシアが協議の場を持つなど、 冷戦時代からは想像できないほどの距離の近さが生まれます。4
2-2. プーチン時代とすれ違いの始まり(2000年代)
2000年にプーチン大統領が登場すると、ロシアは「強い国家」と「大国としての復活」をめざす路線をとります。 一方アメリカは、東欧やバルト三国をNATOに取り込み、「民主主義と市場経済の拡大」を進めました。5
ロシア側から見ると、これは「自分たちの勢力圏への介入」に映り、反発が強まります。 2008年のグルジア(ジョージア)紛争、2014年のクリミア併合などを通じて、 米露の関係は再び冷え込んでいきました。6
3. ウクライナ戦争と制裁で「新・冷戦」レベルの対立へ
3-1. 2014年のクリミア併合以降、アメリカは「対ロシア制裁」へ
ロシアが2014年にウクライナのクリミア半島を併合すると、アメリカとEUは経済制裁・外交制裁を発動します。7 ここから米露関係は、協力よりも対立が前面に出る時代に入りました。
3-2. 2022年のウクライナ全面侵攻で関係は戦後最悪に
2022年、ロシアがウクライナに大規模な軍事侵攻を開始すると、アメリカは ウクライナへの軍事・経済支援を急拡大し、対ロシア制裁も石油・ガス・金融など 広範囲に強化されました。8
これに対してロシアは、NATO拡大とアメリカの介入を強く非難し、 「西側との対決」という姿勢を明確にしています。9 2025年現在もウクライナ情勢は続いており、米露関係は冷戦終結後で最悪レベルと言われています。
4. 核軍縮・安全保障での微妙な駆け引き
4-1. New STARTとその先の軍縮交渉
アメリカとロシアは、依然として世界の核兵器の大部分を保有している国同士です。 2011年に発効した新戦略兵器削減条約(New START)は、 双方の配備戦略核を上限で管理する重要な枠組みになっています。10
しかしウクライナ戦争の影響で、ロシアは査察の停止を表明するなど、軍縮体制は大きく揺らぎました。 2025年に入ると、プーチン大統領がNew STARTの制限を一定期間維持する用意があると示し、 アメリカ側も新たな核軍縮協議の可能性を探っていますが、ウクライナ情勢と切り離せるかが課題となっています。11
4-2. サイバー攻撃・宇宙・新兵器という新しい分野
近年は、サイバー攻撃や宇宙空間、新型の極超音速兵器など、 これまでの条約がカバーしていない分野でも米露の競争が激しくなっています。12 2025年11月には、アメリカ・イギリス・オーストラリアがロシア拠点のサイバー関連企業に新たな制裁を発表するなど、 「見えない戦い」の側面も強まっています。13
5. 2025年現在の「対立しながらの対話」
5-1. 大使館・外交チャンネルの復活に向けた動き
2014年以降、米露は互いの大使館員を追放し合い、モスクワやワシントンの大使館業務は大幅に縮小されていました。14 しかし2025年に入ると、サウジアラビアやトルコで両国の外交官が会談し、 大使館の人員回復や業務正常化に向けた協議が行われています。15
2月にはロシアが新たな駐米大使の任命を発表し、「関係改善への一歩」として注目されました。16 ただし、これはあくまでも最低限の外交チャンネルを維持するための措置であり、 根本的な対立が解消されたわけではありません。
5-2. ウクライナ戦争をめぐる「停戦案」をめぐって
2025年秋には、アメリカがウクライナに対して新たな和平案を提示し、 ロシア側の要求に近い内容が含まれているとの報道も出ています。17 これが実現すれば米露関係の緊張が幾分やわらぐ可能性がある一方で、 ウクライナの主権やヨーロッパの安全保障への影響をめぐり、 欧州諸国やウクライナ国内で強い議論を呼んでいます。
6. まとめ:米露関係は「長期的なライバル関係+限定的な協力」
アメリカとロシアの関係を一言で表すと、「根本的にはライバルだが、完全に断ち切れない関係」と言えます。
- 冷戦期:イデオロギーと核兵器をめぐる全面的な対立
- 冷戦後:一時的な協力と、その後のNATO拡大などをめぐるすれ違い
- ウクライナ戦争:制裁と軍事支援による新たな「冷戦」レベルの対立
- 同時に、核軍縮や外交チャンネル維持など、完全には背を向けられない分野も存在
2025年現在、米露関係は依然として緊張が非常に強い状態にありますが、 大使館の正常化協議や核軍縮の模索など、「最低限の対話の線」を保とうとする動きも見られます。
今後ニュースでアメリカとロシアの話題を見るときは、
「単なる仲の悪い国同士」というよりも、長い歴史と核兵器・同盟・エネルギー・サイバー空間まで絡み合う複雑な関係として捉えてみると、背景がぐっと見えやすくなるはずです。
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